そろそろ、このカテゴリを始動させるべきかなと。関連本のレビュー的なものをいつかやりたいと思ってました。小説などの創作作品から研究本まで、ぼちぼち上げていきます。◆吉村昭『新装版 間宮林蔵』講談社 2011年(原版は1987年発行)やはり最初に挙げるのはこちらでしょうか。小説ですが、資料に忠実に基づいた作品です。2015年に初読し、これで江戸期の蝦夷地探検家に興味を持ち始めたのでした。お前の歴史創作と北方探検家って何なのよ?と聞かれたら、とりあえずこれを読め!と叩きつけるでしょう。私自身がここから始まっていますので。分かち合えたら僕と握手!合わなければごきげんよう!(やけっぱち)予てから北海道の歴史に関心はあったため、その流れで『熊嵐』『赤い人』などいくつか読んでおり、吉村作品にハマりつつあったので他にも読みたくて『高熱隧道』(これは北海道の話ではないが)を書店で探したものの見当たらず、代わりに目に飛び込んできたのがこれでした。間宮って海峡の?樺太探険だっけ?時代はいつ(明治あたりだと思ってた)?なんなら間宮海峡の位置もよくわからない(宗谷海峡の別名だと思ってた)というくらい、それまでは本当に無知だった自分がもはや懐かしい…というか恥ずかしい(笑笑)戦前の教育では偉人のカテゴリーに入っていたようですが、自分の年代ではすでに学校では習っていなかったので(教育方針や地域性もあるのかもしれない)、仕方ないといえば仕方ない。北海道とは関係ないかもしれないけど、お勉強として読んでおこうくらいの気持ちで手に取ったものです。それが、予想に反して、とても面白かった。探検(冒険)モノだからというのもあるけれど、ロシアとの緊張、異民族の生活、世界情勢等、当時の時代背景からがっつりと、本当に勉強になった。人物の一代記なのである程度順を追っていてわかりやすく、この作家特有の淡々とした筆致が逆に場面や心情の人間臭い生々しさを描き出していて、思わず物語に没入してしまいました。巻頭に間宮の樺太図の写しがあるので、これを見ながら読み進めると距離感や位置がわかって良いです。北海道各地にも植林や測量などで関わっているためガッツリ縁はあります。もちろん、樺太や北方領土の歴史はこれ以前にも以後にもあり、関わった人物もまだまだ多くいるので間宮の活躍がすべてではありません。それにしても、間宮本人のアクの強さよ…!文化露寇のフヴォストフ事件に巻き込まれるところから物語が始まるのですが、周りが撤退を決める中、自分は交戦を主張したという証文を書けと上司に迫ったり(それ、あの時代でありなの!?)、樺太探検で同行した松田伝十郎に、もう一度海峡の見える場所まで連れて行けとせがんだり、ゴローニンとバチバチやり合ったり…上司や外国人にも堂々と立ち向かう姿は印象的(史実です)。ただそれらの言動も心情的には理解できるので、作家の表現の巧みさもあるのかもしれない。ここでは全体的に間宮は人間臭くも真面目なキャラとして描かれているので、感情移入しやすくハマる要素はあるのだろう。伊能忠敬とは師弟関係だったというのもこれで知って、すごく意外…!と驚いたり。奉行所からの処分を待つ心情や、異民族からの襲撃、探検中の凍傷や野に分け入る描写は、もうそれだけでこちらも胃が痛むほど。特に野に入る場面の表現、「糠蚊の群れに包まれる」は、『赤い人』でも同じような表現があったと記憶しているけれど、これは実際にそういう経験をしなければ書けない表現なので、信用に値します。そう、ヤブ蚊には、襲われるのではなく、包まれるのです…(経験あり)協力を仰ぎ(報酬は一応あっただろうが)、同行したアイヌの人々の労苦、異域の生活や風俗、交易の生き生き(殺伐と?)した姿も一読に値します。シーボルトとは面識がなかった前提で書かれていますが、後の研究では会っていたことが判明しているため、このあたりはあくまで創作として見る必要はあるでしょう。白状すれば、自分も、読み始めた時は幕府の役職(時代劇なども詳しくないので聞き慣れなかった)や時代背景などの理解が難しく、10ページくらい読んで1ヶ月程放置していたのですが(汗)、気を取り直して続きを読み出すと、樺太行きあたりから俄然面白くなってスラスラ読み進め、後半は暗雲が立ち込める展開に切なくなりつつも一気に読了しました。気がついたら相当この間宮に入れ込んでいて、しばらくは関連の本や情報を漁りまくっていたりと、まあハマりました。あれから10年経つんですね…もうこれってドラクエでは?江戸後期ロールプレイングの世界を堪能出来る1冊です(多分)。#間宮林蔵 いいね ありがとうございます! 2025.1.11(Sat) 04:07:11 関連本
小説などの創作作品から研究本まで、ぼちぼち上げていきます。
◆吉村昭『新装版 間宮林蔵』講談社 2011年(原版は1987年発行)
やはり最初に挙げるのはこちらでしょうか。小説ですが、資料に忠実に基づいた作品です。
2015年に初読し、これで江戸期の蝦夷地探検家に興味を持ち始めたのでした。
お前の歴史創作と北方探検家って何なのよ?と聞かれたら、とりあえずこれを読め!と叩きつけるでしょう。私自身がここから始まっていますので。
分かち合えたら僕と握手!合わなければごきげんよう!(やけっぱち)
予てから北海道の歴史に関心はあったため、その流れで『熊嵐』『赤い人』などいくつか読んでおり、吉村作品にハマりつつあったので他にも読みたくて『高熱隧道』(これは北海道の話ではないが)を書店で探したものの見当たらず、代わりに目に飛び込んできたのがこれでした。間宮って海峡の?樺太探険だっけ?時代はいつ(明治あたりだと思ってた)?なんなら間宮海峡の位置もよくわからない(宗谷海峡の別名だと思ってた)というくらい、それまでは本当に無知だった自分がもはや懐かしい…というか恥ずかしい(笑笑)
戦前の教育では偉人のカテゴリーに入っていたようですが、自分の年代ではすでに学校では習っていなかったので(教育方針や地域性もあるのかもしれない)、仕方ないといえば仕方ない。北海道とは関係ないかもしれないけど、お勉強として読んでおこうくらいの気持ちで手に取ったものです。
それが、予想に反して、とても面白かった。探検(冒険)モノだからというのもあるけれど、ロシアとの緊張、異民族の生活、世界情勢等、当時の時代背景からがっつりと、本当に勉強になった。人物の一代記なのである程度順を追っていてわかりやすく、この作家特有の淡々とした筆致が逆に場面や心情の人間臭い生々しさを描き出していて、思わず物語に没入してしまいました。巻頭に間宮の樺太図の写しがあるので、これを見ながら読み進めると距離感や位置がわかって良いです。北海道各地にも植林や測量などで関わっているためガッツリ縁はあります。
もちろん、樺太や北方領土の歴史はこれ以前にも以後にもあり、関わった人物もまだまだ多くいるので間宮の活躍がすべてではありません。
それにしても、間宮本人のアクの強さよ…!文化露寇のフヴォストフ事件に巻き込まれるところから物語が始まるのですが、周りが撤退を決める中、自分は交戦を主張したという証文を書けと上司に迫ったり(それ、あの時代でありなの!?)、樺太探検で同行した松田伝十郎に、もう一度海峡の見える場所まで連れて行けとせがんだり、ゴローニンとバチバチやり合ったり…上司や外国人にも堂々と立ち向かう姿は印象的(史実です)。ただそれらの言動も心情的には理解できるので、作家の表現の巧みさもあるのかもしれない。
ここでは全体的に間宮は人間臭くも真面目なキャラとして描かれているので、感情移入しやすくハマる要素はあるのだろう。
伊能忠敬とは師弟関係だったというのもこれで知って、すごく意外…!と驚いたり。
奉行所からの処分を待つ心情や、異民族からの襲撃、探検中の凍傷や野に分け入る描写は、もうそれだけでこちらも胃が痛むほど。特に野に入る場面の表現、「糠蚊の群れに包まれる」は、『赤い人』でも同じような表現があったと記憶しているけれど、これは実際にそういう経験をしなければ書けない表現なので、信用に値します。そう、ヤブ蚊には、襲われるのではなく、包まれるのです…(経験あり)
協力を仰ぎ(報酬は一応あっただろうが)、同行したアイヌの人々の労苦、異域の生活や風俗、交易の生き生き(殺伐と?)した姿も一読に値します。
シーボルトとは面識がなかった前提で書かれていますが、後の研究では会っていたことが判明しているため、このあたりはあくまで創作として見る必要はあるでしょう。
白状すれば、自分も、読み始めた時は幕府の役職(時代劇なども詳しくないので聞き慣れなかった)や時代背景などの理解が難しく、10ページくらい読んで1ヶ月程放置していたのですが(汗)、気を取り直して続きを読み出すと、樺太行きあたりから俄然面白くなってスラスラ読み進め、後半は暗雲が立ち込める展開に切なくなりつつも一気に読了しました。気がついたら相当この間宮に入れ込んでいて、しばらくは関連の本や情報を漁りまくっていたりと、まあハマりました。あれから10年経つんですね…
もうこれってドラクエでは?江戸後期ロールプレイングの世界を堪能出来る1冊です(多分)。
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